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「∞ 〜インフィニティ〜」



デート中の2人に起こった、突然のアクシデント。

「熱っ!!」
「どうした?」
「今、すれ違った人のタバコで…」
「何ぃ?!」

「コラ待て!! おっさん!!」
これだけ言った宏海は、すれ違い 少し先を行く歩きタバコのサラリーマンを目指してダッシュで追いかけた。
追いついて、直ぐに肩を掴んで振り向かせる。
「人の彼女 火傷させて無視かよ!! 歩きタバコなんか最低だろ?! 自分の家族が同じように火傷しても平気なのかよ?!」
怒りのあまり、その男の胸倉を掴み、宙に浮かんばかりに絞り上げる。
周囲には、一体何が起こったのかと人も集まり始めた。
「…止めて! 宏海!!」
やっと、少しヒールのある靴を履き、走るには不向きな落ち着いたスーツを着た矢射子が、宏海に追いついて叫んだ。

「矢射子。 でもオマエ、火傷は…」
「あたしなら大丈夫。 少し赤くなっただけだから。ほら。」
走って来た為に、息を切らしながら、宏海に手を見せて説明する矢射子。
左手の指の付け根の所が少し赤いが、皮がめくれたり水ぶくれにはなっていないようだ。
宏海は、呻き声をあげるその男を無視して右手で締めあげたまま、左手で矢射子の手を取った。
「まぁ、酷くは無さそうだけど…」
「でしょ?」
自分の目で確認出来たのと、矢射子の言葉でほっとしたのか、宏海はその男を開放した。
男は腰が抜けたのか立てなくなってしまい その場に座り込んでいるが、容赦無く上から宏海の言葉は続く。
「命拾いしたな、おっさん。 タバコが吸いたいなら1本丸ごと飲み込んで味わえ!!
 人に迷惑かけるんじゃねえよ!!
 ……こういう時、何か言う事があるんじゃねえのか?!」
「……あ、あの、…す、すみま…」
「はあ? 聞こえんなぁ? もっとハッキリ喋りやがれ!!」
「すっ、すみませんでしたっ!!」
その男は、そう言うが早いか脱兎のごとく逃げて行った。
「ゴメンで済んだら警察要らねーんだよ!!」
睨みながら、地獄の底から響くような声で、逃げる男に大声で怒鳴る宏海。
いつの間にか出来ていた野次馬の輪も、その声で散り散りになってしまった。
宏海はその男や野次馬には目もくれず、目の前のコンビニに入り、急いで袋タイプのアイスを買って矢射子に渡した。

「ほら、これで冷やせ!」
「ありがと。 それにしても… あたし達が、出会う前の姿が想像出来る程 迫力あったわよ。」
言い終わった矢射子は、うつむいて肩を小刻みに震わせた。
「オマエが火傷させられたんだから、当然だろ?」
宏海の言葉を聞いていたのかいなかったのか、うつむいていた矢射子は堪えきれずに顔を上げて吹き出した。
「…ぷぷぷっ!」
「何だよ、何が可笑しいんだよ?!」
コイツ、泣いてるのかと思ったら笑いを堪えてたのかよ! …まぁ、火傷が酷く無えなら良いけど。

「だってー、笑っちゃう!! もー、宏海のスーツ姿、似合わなさ過ぎるんだもん!!」
「俺だって、用が無えと着ねえよこんなもん!! あーもう、暑いし窮屈だし…」
宏海はそう言って、きっちりと締めてあったネクタイを きゅっと緩めた。

「…ありがとv」
ふふっ、と笑いながら、愛しそうに宏海に声をかける矢射子。
「…どう致しまして。」
まぁ、こういう時はスーツだろうからな。 今日は我慢するしか無えか。

「それより、もう1回 手見せてみろよ。 本当に大丈夫か?」
そっと矢射子の手を取り、赤くなっている部分を触る宏海。
「痛いか?」
「ちょっとヒリヒリするくらい…大丈夫よ。」
「今から医者行くか… オヤジさんには電話入れておくから。」
「ええっ?! そこまでしなくても…大丈夫だってば!」
「良くねえよ!!」
跡が残ったらどうすんだよ!!


宏海は鞄から携帯を取り出し、矢射子の家に電話をかけた。
『…阿久津と申します。 …ハイ、ありがとうございます。 …それなんですが少し遅れる事になりそうです。 …矢射子…さんが歩きタバコで火傷を…申し訳ありません。 …ええ、医者に寄って… そこを出たらまた電話しますので… 失礼します。」

電話中の宏海の背中を見ながら考える矢射子。
さっきは『似合わない』なんて言っちゃったけど… でもスーツの後姿とか、カッコイイのよね〜 久々に見ると鼻血噴きそう! もうすぐあの宏海が…なんて!なんて! 


電話が済んだ宏海は、携帯を閉じて矢射子に声をかけた。
「じゃ、医者行くか。」
「うん!」
歩き出す2人。
「…また何か妄想してたろ…顔がニヤ付いてるぞ。」
「ええっ?! いやそんな、妄想と言う程の物では…」
宏海は、焦る矢射子を『いつもの事だ』とスルーして言葉を続けた。
「…さっきのヤローは許せねえけど…俺、正直言うと、少し時間が出来てほっとしたんだよな。」
「どうして?」
「…いや、オフクロさんとはたまに会うけど、オヤジさんと会ったのって…1回だけだろ? なのに、会って言わなきゃいけねえ事が事だし…」
「うちの親なら大丈夫! もう大歓迎!! 今から早く孫!孫!とか言っちゃってるし…」
言ってから、しまった!という顔になる矢射子。
矢射子の表情は見逃さなかったが、まぁいいか、と話を続ける宏海。
「…なら、いいか。」
じゃぁ、問題なのはうちのオヤジだけか…それでもかなりマシになったけど…今は考えるのは止めとくか。

「子供、かぁ… 矢射子は何人くらい欲しいんだ?」
悪戯っぽく笑う笑顔は、出会った頃と同じ、少年のままだ。
「もうっ!! …バカ!」
もう、何で歩きながらそんな大事な事をさらっと聞くのよ!

「あ、でも、宏海によく似た男の子は欲しいな〜」
「はぁ? 俺に? う〜ん、俺に似ると苦労するぞ。 特に、髪の事とか…」


手をつなぐ2人。 今まで、何十回も、何百回も、それ以上沢山、つないできた。


これからもずっと、いっしょだよね?

そう思い、宏海を見ながら、手をきゅっと握る矢射子。
もうポニーテールは似合わないけれど、それでもあのリボンは2人の宝物だ。
矢射子の手をぎゅっと力強く握り返す宏海。

「次の給料が入ったら、指輪買いに行くか。」
火傷の跡が残るようじゃ困るんだよ。 一生守るって、決めたばっかなのに。

「うん!」
これからも、ずっとずっと一緒に、手をつないでいこうね!
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…まぁその、アレですね。 すっとばすにも程があるという程先の話ですが…
「∞」は、永遠とか、指輪2個とか、そんな感じで。

失礼致しました。